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Month: 4月 2015

厚労省の先駆け審査指定制度について

Image by jepoirrier on Flickr

関係のない方には全く関係のない話ですが、個人的にはここ数年の政府の取り組みの中で最も画期的なものの1つだと思っているのが、今回取り上げる厚生労働省の「先駆け審査指定制度」です。

今年度からいよいよ運用開始されるこの制度ですが、何がそんなに画期的なのかざっくり一言でまとめると「有効な治療法が見つかっていない疾患で世界に先駆けて新しい医薬品・医療機器・再生医療製品を日本に投入する場合は、審査と承認にかかる時間を大幅に短縮します」という内容です。

制度の詳しい内容はこちらの概要書を見て頂ければと思いますが、この制度のキモの部分は通常12ヶ月かかる承認審査の期間が半分になるという表面上の分かりやすいメリットよりも、実はそれよりももっと大きなところにあります。それは、いわゆるフェーズ3(第III相試験)と呼ばれる臨床試験が終わる前段階でも「事前評価」という形で承認プロセスを開始できるという点です。

自分は創薬やバイオの専門家ではないので、そこまで制度に詳しいわけではないですが、それでも関係者の方々に話を聞くとこの制度によってフェーズ3で求められる「多数の患者による有効性・安全性の確認」という高いハードルを越えなくともある程度の申請手続きを始められるため、市場投入までのリードタイムが相当短縮されるだろうという意見をよく耳にします。

この制度によってようやく日本の創薬・バイオベンチャーをとりまく環境が改善されると言う方もいれば、これで日本は一気に世界の先頭に立とうとしていると言う方もいます。事実、iPS 細胞関係の某バイオベンチャーの代表の方も、先日あるイベントでこうコメントされていました。

「いま世界中のどこでも自由にバイオベンチャーを創業して良いと言われても、それでも自分は客観的に見て日本で起業するだろう。それだけ日本の環境は整いつつある。」

自分個人としてはハードウェア・IT の専門家として、IoT x 医療分野でのイノベーションに注目していて、こういった制度を活用することで日本から世界で戦えるユニークなベンチャーが生まれてくる可能性があるのではないかと思ってます。

自分が拠点としている京都・関西は、オムロンやアストラゼネカなど国内/外資系を問わずライフサイエンス・ヘルスケア関係の有名企業が多く存在していているうえに、iPS 細胞関連のバイオベンチャーが多数の研究開発拠点を置いているのも今更言う必要がありません。こういった地の利を活かすことで、シリコンバレーや中国深センとはまた違った点で差別化されたハードウェアx医療系スタートアップが作れるのではないか、というのが最近の持論です。

もちろん医薬品・医療機器の分野というのは、こういった制度があったとしても参入障壁がもともと高い分野ではありますが、同分野で実際にビジネスをしている経営者やモノを作っているエンジニアに直接話を聞ける機会が多い京都・関西は、やはり他の土地と比べて圧倒的に有利な気がしています。

ドイツなどは数年前から「インダストリー4.0」という名目で工業分野のデジタル 化・IoT化に国を挙げて全力で突き進んでいますが、もし同じことをここでやるなら「ライフサイエンス4.0」か「ヘルスケア4.0」といった感じででしょうか。国とスタートアップが同じ方向を向いた時に、どれだけの爆発力が生まれるのか考えると結構ワクワクします。

一昔前は、IT (ソフトウェア) と英語の知識があれば勝ち組と呼ばれていましたが、これからはこの2つに加えてハードウェアと医療の知識があれば、相当にユニークなポジションを築けるのかもしれません。

ハードウェアスタートアップの未来:トレンド編

Image by nolnet on Flickr

最近は Dragon Innovation のブログ記事をほぼ全て日本語に翻訳している感じですが、今回も同社の最新記事 The Future of Hardware – Part 2: The Trends の意訳という形で書きたいと思います。

[原文へ]

ハードウェアとその製造方法が進化し続けるに従って、未来を形作るであろう幾つかの重要な変化が今起きつつあります。

さらなる抽象化

我々が2000年初期の頃に Roomba を作った時は、モーターを駆動させるために自前のHブリッジ回路をプリント基板上に作る必要があった。(筆者注釈:Hブリッジ回路とはモーターの回転・逆回転の制御に使われる回路のこと。ロボット動作の基本部分を司る重要な回路。)そして、それらを動作させるために低レベルのコードを書く必要があった。この作業は設計・作成・組み立て・試験・デバッグに何週間もの時間を要した。

Roomba のHブリッジ回路とモターを再利用して作られたロボットの例
Roomba のHブリッジ回路とモーターを再利用して作られたロボットの例

現在では Tessel を使うことで、無線経由でモーターを回転させるのにたった数行のコードと5分の時間しかかからない。(筆者注釈:Tessel とは JavaScript と Node.js で制御可能なマイコン。C言語の習得が必要な通常のマイコンに比べてウェブエンジニアにとって扱いやすいのが特徴。)今ではこれら先人の知恵を多少借りることで、これまでになく素早くかつ安価に proof of concept に到達できるようになった。

これらの現状を踏まえた次のステップとしては、proof of concept で使用した同じチップセットとコードを使った量産体制への移行という未来が到来するだろう。電子部品とソフトウェアのモジュール化によって、試作品から量産品への移行をスムーズにするためのさらなる抽象化がもたらされるだろう。(機械工学関連は引き続き自前でやることになるが、量産品質の3Dプリンターによってこれも今後進化するだろう。)

サプライチェーンの複雑化

加速度センサー、無線関連、何かのデータを処理するもの、電池類などの「安易な」アイデアの製品は既にほとんど市場に出尽くしてしまっている。これから登場するであろうハードウェアスタートアップの第2波は、異なるサプライチェーンを組み合わせる形でイノベーションを起こすだろう。

BlueSmart が良い例だ。スーツケースとプリント基板を融合させたこの製品は1年前には想像すらできなかった類のものだ。こういった異なるサプライチェーンの組み合わせによって、ハードウェア製品の品質と多様性は今後さらに向上するだろう。

bluesmart
世界初の「通信可能な」スーツケース BlueSmart

製造における「死の谷」を越える

IoT・ハードウェア製品の大衆化とクラウドファンディングによる後押しによって、5,000〜1万個という小規模な製造ボリュームに対する要求は今後ますます増えるだろう。こういった小規模な製造ボリュームは国内での生産に適しており、これまでのような顧客から遠く離れた場所にある工場とは競合する形で、世界規模の地産ムーブメントを引き起こすだろう。競争力を維持するためには、地産型の国内工場は柔軟なファクトリー・オートメーション(FA)を構築することで上昇し続ける人件費に対応する必要があるだろう。

工場選択の重要性

ハードウェアスタートアップは信頼できる工場を見つける必要がある。同様に、工場の方も自社の能力や成長に見合った顧客を見つける必要がある。効率的な製造ノウハウと工場ネットワークへのアクセスは、今後もコスト・品質・スケジュールを管理するうえでの競争優位性であり続けるだろう。

以上です。

量産品質の3Dプリンターの登場は、世界規模での地産地消ムーブメントを一気に引き起こすと自分も以前から考えています。量販店で買う製品と全く同じクオリティの製品を自分の家の卓上で3Dプリントできるようになった時、何か世の中で起きるか考えると今から本当にワクワクします。

Dragon Innovationの前回記事 The Future of Hardware – Part 1: The Tools and Technology もあわせてどうぞ。