Press "Enter" to skip to content

Month: 4月 2014

ハードウェアスタートアップを立ち上げる際の注意点

先日審査員を務めさせて頂いた TechCrunch Hackathon Osaka の記事が公開されました。

記事1:Android直挿しボードでIoTの可能性も見えた!? TechCrunch Hackathonの優秀作品を紹介
記事2:TechCrunch Hackathon Osakaでニッポンのレゴマインドストーム「Studino」を見た!

パナソニック、シャープ、京セラ、OMRON、村田製作所などモノ作り企業が集積する関西で、IoT (Internet of Things) をテーマにしたハッカソンやスタートアップ関連イベントが最近だいぶ増えてきたように思います。それに比例するかのように、自分の周りでもハードウェアを扱ったスタートアップの起業相談をよく受けるようになりました。

自分自身、20代で仲間と一緒に起業した最初のスタートアップがいわゆるデジタルサイネージ関連で、海外でハードウェアを OEM 生産して自社のブランドでそのハードウェアを販売するビジネスであったこともあり、ハードウェアを扱ったビジネスを一通り経験することができました。

そこで、今回は特に IT 業界からハードウェア業界に転身してビジネスを立ち上げようとする起業家の方に向けて、幾つかの注意点をアドバイスしたいと思います。

1、保守費用は5割増で

自分が共同創業した最初のスタートアップのビジネスモデルは、客先(店舗)にハードウェアを設置してワンタイムの売上を出しつつ、設置後に映像コンテンツを月額課金で供給するというものでした。

ハードウェアの売上はその種類や規模にもよりますが、一般的にソフトウェアだけの売上よりも大きくなる傾向があり、販売台数に伴って売上も指数的に伸びて行きます。販売開始後の半年〜1年はあまり大きな問題も起こらず順調に進みますが、それ以降、ハードウェアビジネス特有の問題が顕著化します。それが保守問題です。

客先に設置するタイプのハードウェアでは、ひとたび問題が起きると当日中に現場に人を送り込んで、その場で修理対応を行うのが基本です。

当時の自分を振り返っても、問題が発生した際は日中の業務を終えた後に、クルマに乗り込んで東京から東北まで深夜の高速道路を6時間かけて移動し、お店の閉店後の夜11時あたりから修理作業を開始し、修理したハードウェアが正常に動作することを確認するために一晩中エージングテスト(長時間ハードウェアを稼働させて問題がないことを確認する作業)を行い、その間は自分のクルマの中で寝泊まりして、朝方になってお客さんに修理完了の報告をして、再び高速道路で東京に戻り、そのまま通常の日中業務に戻る、という日々を送っていました。

まぁ、若さにカマかけて無茶苦茶にハードワークしていた時代でした。一応、肩書きは CTO でしたが、スタートアップでは保守専用の人員など抱えられないので、最初のうちは全部自分でやります。営業マンもエンジニアも全員保守作業を兼任します。

もちろん保守作業をアウトソースすることも出来ますが、その場合は外部の人材を常にキープすることになるため、ほぼ確実に固定費が上がります。スタートアップは固定費を抑えざるを得ない状況にあることがほとんどですので、やはり最初は自分たちでという話になります。

B2C で一般消費者にハードウェアを販売するビジネスモデルでも同じです。客先まで行って修理を行うことは稀ですが、それでも商品の返品にかかる送料、修理用の部品の確保、交換用商品の在庫などなど、B2C であっても保守にかかるコストは相当なものです。

自分のアドバイスは、保守にかかる費用を一旦見積った後に、その費用を5割増することです。それでいて、現実にはその費用を超えることになると思います。とにかく保守にかかる費用は多めに見積ることです。

2、簡単にやめることができない

ソフトウェアだけで完結するビジネスとは異なり、ハードウェアを扱うビジネスでは、自分がビジネスをやめても製品は顧客の手元に残り続けます。一昔前のパッケージ型ソフトウェアのビジネスも同じ状況でしたが、今はほとんどがクラウド経由で提供されるためか、SaaS ビジネスから転身しようとされる起業家の方は意外とこれを認識されていないことがあります。

さらに、B2B で保守期間が契約書に明記されていたりすると、基本的にはその期間が終わるまではビジネスをやめることができません。もし途中でやめる場合は、その事業を継続してくれるパートナー企業を見つけて事業譲渡という形をとって、顧客のビジネスに影響が出ないようにする必要があります。

一部の IT 系スタートアップのように、一方的に通知をメールで送ってサービスを自社都合でいきなりやめてしまうと、ハードウェアビジネスではそれこそ訴訟問題に発展するケースもあります。撤退する際は、十分な計画の元それを実行に移さなければなりません。

3、キャッシュフローは前払金を前提に

通常、スタートアップが自社で工場を構えてハードウェアの生産を行うケースはほとんど無いため、何かしらの形で外部の業者に製造を委託することになります。その際、IT 系スタートアップではおそらく経験しないであろうユニークな商習慣に出くわすことになります。

それは、全ての支払いが「前払い」で行われる、ということです。モノを作る製造業者は、何かしらの材料を仕入れて製品を作るため、製造の前にキャッシュアウトが発生します。そのため、立ち上がったばかりで信用力に乏しいスタートアップは、これらの製造業者に仕事を依頼する際に前金制で支払いを行うことが求められます。逆の立場になって考えれば当たり前の話ですね。

なので AWS のように使った分だけ後で課金される IT 系スタートアップとは常識が異なるワケです。では、仮に製品がものすごくヒットして大量の注文が入ってしまったらどうなるか。極端な話、1個1万円の製造原価の製品を1万個作るために1億円を「前払金で」製造業者に支払う状況が発生することになります。

これが、大きな売上が出ているにも関わらず会社が立ち行かなくなる瞬間です。IT 系スタートアップでも、TechCrunch などで掲載されてトラフィックが急増した結果、サーバーのキャパシティが足りなくなり採算度外視でインスタンスを追加するなどのケースが稀にありますが、ハードウェアビジネスの場合はキャッシュウアウトの金額が IT の比ではありません。

しかも、製造した製品が全て売れるわけではなく、在庫・返品製品として売れ残るリスクも発生してきます。ハードウェアビジネスでは、受注・発注・資金回収にまつわるキャッシュフローマネージメントがかなり重要で、将来のキャッシュニーズに基づいた綿密な資金調達の計画と実行が求められます。

4、様々な規制にあわせる必要がある

自分が過去にデジタルサイネージのビジネスをやっていた時も、ハードウェアを設置する都道府県ごとに屋外広告物に関する規制が異なり、それら全ての規制に準拠しつつ製品の営業・製造・設置・保守を行う必要がありました。

IT のビジネスでも規制が全く関係しないわけではないですが、ハードウェアの場合、関わる規制の数が多岐に渡る場合が多いです。特に WiFi など電波を飛ばす製品は各国で認証を取る必要があります。稀に Arduino や Raspberry Pi などに中国製の無認可の WiFi モジュールを載せて全世界での販売をうたっているスタートアップや個人の方がいらっしゃいますが、これはかなりグレーです。

対象とする分野やユーザー層によってもクリアしなければいけない規制が変わってきますので、医療用や子供向けなどターゲットが決まった時点で、規制のチェックを行う必要があります。これらはもちろん製品設計・開発の前にやります。

5、バージョン3まで持ちこたえる体力を身につける

以前このブログで書いた「ハードウェアスタートアップやるなら京都と関西」でも少し触れましたが、Google に買収された Nest の創業者 Tony Fadell もインタビューで答えている通り、どんなハードウェアもおそらくバージョン3になるまで、まともな利益が出ない状況が普通です。

逆に言えば、バージョン1&2の製品は赤字覚悟、運がよくて利益トントン。これがハードウェアスタートアップでの常識とも言えます。なので、VC からの資金調達も含めての事前の資金確保とバージョン3に達するまでのキャッシュアウト計画が非常に重要になります。

他にも細かいところでは色々と注意しなければいけない点はあるのですが、ブログなのでこの辺にしておきたいと思います。ここまで読むと「ハードウェアスタートアップなんてやるもんじゃない」と思われるかもしれませんが、実は自分はそうは思っていません。

今では 京都試作ネット のようなプロトタイプ製作に特化したプラットフォーム、Kickstarter のような顧客開発ツール、TechShop のようなコミュニティレベルの支援組織があるので、これらをうまく活用すれば数年前では考えられないようなスピードと低リスクでハードウェアスタートアップが立ち上げられる時代になりつつあると思っています。

ちなみに Kickstarter を「資金調達ツール」ではなく「顧客開発ツール」と呼んでいるのは理由がありますが、これはまた別のブログ投稿で触れたいと思います。

起業しないという選択肢

シンガポールの VC である Golden Gate Ventures の創業者 Jeffrey Paine 氏のブログ記事からの抜粋。

I will also give my input from the start and actively kick people out no matter what the mentor rating is. The criteria is simple: focus on the mission and ideology of your company and clearly articulate the problem statement against your own personal founding story. If the general direction is game changing, and may move me to think of quitting my job (hypothetically) to join you. You will be safe and will remain in the program.

要約すると、こんな感じ。

「(ファウンダー・インスティテュートでの)メンターの評価に関わらず、これからは自分の判断で受講生をプログラムから積極的に退学させることにした。君がやろうとしていることが世の中を一変させるような素晴らしいアイデアで、かつ自分を君のスタートアップに参加したいと思わせることが出来たならば、君はプログラムに残り続けることができるだろう。」

自身の VC 経営以外に、シンガポールでのファウンダー・インスティテュート立ち上げメンバーとして過去4年間プログラムを運営してきた彼のアドバイスは本当に参考になることが多い。関西でのファウンダー・インスティテュートの立ち上げが決まった時も、彼は真っ先にメンター就任を OK してくれました。

そんな彼が「積極的に受講生を退学させる」と言っているわけなんですが、それには当然理由があったりします。自分も現在ファウンダー・インスティテュート関西に応募頂いている様々な人の選考に携わっていますが、その選考に当たって1つだけ特に注意していることがあります。

それは応募者に起業しないという選択肢を与えることです。

Y Combinator や 500 Startups、TechStars などのアクセラレーターは、参加企業に対して一律に小額の出資を行っています。その代わりに参加企業は自社の 5〜7.5% の equity (株式) をアクセラレーターに預けます。これはどういう事はというと、これらのアクセラレーターに参加する企業は応募の時点で既に会社組織が出来上がっていることが前提で、逆に言えばすでに起業した人が応募するプログラムになっているわけです。

一方でファウンダー・インスティテュートは、スタートアップの成長を支援する組織として同じアクセラレーターに属するものの、自身を Idea-Stage Incubator と呼んでいるように、ビジネスアイデアを昇華させて実際のビジネス(会社組織)に変える部分について特にフォーカスしています。つまり、ほとんどの参加者が起業していない状態で応募するわけです。

そのため、ファウンダー・インスティテュートでは、参加者に対してある特別な人生のイベントが発生することになります。それは、安定した収入があるサラリーマンという立場を捨てて、全く収入が無い起業家という人間になる、というイベントです。

この人生の重要な局面に、ファウンダー・インスティテュートの運営メンバーは、ほぼ毎回立ち会うことになります。病院で言えば、産婦人科の助産師みたいなもんです。

ファウンダー・インスティテュートは基本的に夜間のプログラムであるため、起業を決意した後でも、卒業後にまたサラリーマンの仕事を続けるという選択肢もとれるようになってはいますが、それでも毎年数百人の起業家を産み出している事実には変わりないため、ここは慎重に考える必要があると思っています。

残念ながら、世の中には起業家という職種に向いている人と、そうでない人がいます。この間、テレビドラマでも似たようなシーンがありましたが、起業家になると「明日までに1,000万円準備して持って来い。」というような状況に遭遇することが何度かあります。もちろん、スバリそのままの状況に遭遇する人は少ないかもしれませんが、それでも倒産の2文字が寝ている間も頭から離れない状況になることが必ず数回は訪れます。

何を食べても砂の味しかしないという心境は、その状態に追い込まれた人間にしか分かりません。自分も何度もそういう経験をしているので、起業家になるという人が持つべき最低限のメンタリティーとストレス耐性については十分すぎるほどによく分かります。

プログラムに応募する時点で、そういった起業家の素質を持ち合わせていない人は、やはり一定数存在します。そういった人をやみくもにトレーニングして、起業させて、2〜3年後にド派手に失敗させるというのは、自分は絶対にやるべきではないと思っています。

特に日本ではまだまだ失敗者に対する社会的な扱いが厳しい部分も根強く残っているため、1度の失敗がその人の人生を本当にメチャメチャにしてしまう可能性もあります。そういった人生の大きな局面に、自分たちは関わっているのだという意識は、ファウンダー・インスティテュートのような組織の運営に携わる人間は常に持っている必要があるわけです。

本来、ファウンダー・インスティテュートのような学びの場を提供する組織は、生徒集めが最大のプライオリティで、とにかく人を集めるために各社飛び回っているわけですが、それは我々も一部当てはまる部分はあるものの、決してそれだけに注力してはいけないということです。

前回のブログ でも少し触れた通り、物事を立ち上げられない人のなかには、物事を立ち上げること自体が目的になってしまい、適切な仲間や人材がいないのに無理矢理それを押し進めようとする人がいます。これも、うまくいきません。やはり全ては人です。数や期限は関係ないです。

アメリカに留学していた頃、メジャーリーグに入ることを夢見て同じく日本から留学してきた友人がいましたが、彼は当時から日本でも傑出した野球人材で、学生ながら地元のマイナーリーグのプロ選手と一緒に練習するくらいの能力とスキルを持っていました。

そんな彼ですら、メジャーリーグという世界最高峰の市場でプレーする人間の凄さを間近で見たことによって、絶対に自分では超えられない身体的な壁があることに気づくことが出来たと言っていました。それは、それこそ人間の骨格や細胞といった、日本人である以上なかなか超えられない壁だったそうです。

彼はメジャーリーグでプレーするという夢は残念ながら諦めることになりましたが、その後日本に帰国して自分のビジネスを立ち上げ、いまでは社長としてかなり上手くやっています。

何が言いたいかというと、メジャーリーグにいるプロ中のプロ達が、彼に対して「ノー、君には無理だ。」とハッキリ言ったことで、今の彼があるわけです。これはこれで良いと思っています。日本での起業家を増やす努力をする一方で、こうやってハッキリと「ノー」という先人がいなければ、やはり日本からは優れた起業家は産まれないのではないでしょうか。

これからファウンダー・インスティテュートに応募頂く方、もしくは学期が始まったあとの受講生の方に、「ノー」と言わなければいけない機会は今後もあるかと思います。しかし、それは経験や客観に基づいて、その分野のプロが考えに考え抜いた結果そう言っているわけですので、それなりの理由があることを理解頂ければ幸いです。

逆に、そういったしっかりとした人たちに囲まれて卒業された起業家は、どこに行っても活躍できると信じています。がんばりましょう!