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Month: 1月 2014

ハードウェアスタートアップやるなら京都と関西

前置きをさせて頂くと、この記事にはバイアスがかかっています。

京都で自身のスタートアップを運営しながら、地元のスタートアップを支援する活動を行っている関係上、物事の良い面だけを強調している可能性がありますので、それを踏まえて読んで頂ければと。

前回の投稿でも少し触れた Nest ですが、同社の CEO で初代 iPod の発案者でもある Tony Fadell の Kevin Rose によるインタビューについて少し書きたいと思います。インタビューの中で、Kickstarter に代表されるクラウドファンディングで数々のハードウェアプロジェクトが成功をおさめている現状について、Tony はこのように話しています。

ほとんどのハードウェアプロジェクトの問題は、製品がバージョン3になるまで利益を生まないことだ。最初2つのバージョンで色々と試行錯誤して、運が良ければなんとかブレークイーブン。それでも、それぞれのバージョンに2億円から5億円を投資しているはずだ。なので、実際に利益が出始めるまでには7億円から10億円もの資金が必要になる。

(Kickstarter から)バージョン2やバージョン3に達した製品を多くみかけることはないだろう。自分だったらバージョン1を一回だけやって、それでおしまい。自分がどだれだけクレイジーなところに突っ込もうとしているかを知ることになるからね。

自分も過去に自社ブランドのハードウェアを OEM 生産して販売するスタートアップを一度やったことがあるので、多いに理解できる部分があります。つまることろ、たとえファブレス経営であっても自社だけでハードウェアを設計・販売・保守するには相当な体力が要るという話ですね。

一方で「ひとり家電メーカー」として知られる Bsize の八木さんのように、製造部分をアウトソースすることで、個人としてハードウェアビジネスをスタートした方がいらっしゃるのも事実です。ただし、Nest の場合、その洗練されたデザインのハードウェアもさることながら、同社の真の強みはインターネット経由で各家庭からアップロードされる膨大なデータとその解析技術であって、Google が買収したのもまさにその部分の技術資産と人材です。

いわゆるビッグデータをコアとする場合、相当な数のハードウェアを普及させる必要があるため、やはりかなりの資金が必要になります。たとえハードウェアそのもの安価に製造できたとしても、普通のハードウェアメーカーという存在だけでは、Google のような大手 IT 企業の買収ターゲットにはなりにくいでしょう。それこそ、Motorola Mobility のように大量の特許と知財を持っているとか、SCHAFT のように高度なロボット制御技術を持っているとか、そういう価値が必要になってきます。

では、ハードウェアスタートアップで大規模な資金調達を行わずにマス市場を狙うことは不可能であるかと言えば、自分はノーだと考えています。そして、それに対する回答の1つが京都と関西にあると思っています。

ご存知の通り、いま日本のメーカーはグローバル市場で苦戦を強いられています。理由は各社様々ですが、クルマのような既得権益にかなり守られたハードウェア製品であっても今後 IT 化が進むことは明白で、Google のような IT 企業が Android や超大規模なコンピューティングリソースを武器にハードウェア市場にますます浸食することが確実視されています。これは家電製品や企業で使われるオフィス製品であっても同じだと思っています。

このような変化を受けて、日本国内のメーカーが危機感を募らせていないかと言えば、少なくとも自分が話をさせて頂く若手の現場の方々は、ちゃんと危機感を持っているように感じられます。「なにかせえへんと、うちの会社ほんまにヤバイぞ」と。

なのに、メーカーがなぜアクションがとれないかと言えば、それはやはり社内に人材がいないから、という話になります。「餅は餅屋」ではないですが、本来であれば IT を最も得意とする IT スタートアップにソフトウェア&インフラ開発を任せれば、かなりスピーディに解決できる問題も、なぜか日本国内ではそのようなコラボレーション事例をほとんど耳にしません。自分の大学の後輩でもある伊地知くんが経営している Creww は、そういう意味で日本の大手企業のマインドセットにブレクスルーを起こし得るスタートアップとして、応援したくなります。

京都には、京セラ・ローム・オムロン・村田製作所・日本電産などグローバルな舞台で活動している大手企業や、モノ作りに長けた中小零細企業がたくさんあります。すでに水面下では、鋭い洞察力をもった少数の IT 起業家が京都に移り住んで、こういったメーカーと組む形で IT x ハードウェアの分野で革命を起こそうと動き始めています。

いずれ、そのような動きはサプライズとして世の中にデビューすることになるかと思いますが、起業家のみなさんには、ぜひそれを待たずに、自ら革命を起こす側としてどんどん京都と関西に乗り込んできて頂ければと願っています。微力ではありますが、自分も力になれると思います。

京都のハードウェアメーカーが持つノウハウ・製造施設・流通・保守体制をお互いにメリットがある形で利用することができれば、Tony が言うような膨大な資金を用意せずとも、IT 化されたハードウェアで世界と戦えます。

「ハードウェアスタートアップやるなら京都と関西」と、言われるのが当たり前になる日はそう遠くないです。

ベンチャーキャピタルはスタートアップに価値を提供できなければ死ぬしかない

nikkei_bizえらいたいそうなタイトルですが、これは日経ビジネス 2014年1月20日号の特集「シリコンバレー 4.0」で、ある中堅 VC の幹部が言ったセリフだそうです。

「お金」という切り札を持つ投資家ですら、「育てる」能力がなければたちまち淘汰される時代になったからというのが理由とのこと。

ここ1〜2年のコーポレートベンチャーキャピタル (CVC) やベンチャーファンドの組成ラッシュを見ていると、いよいよ日本でも VC に対する競争原理が本格的に働いてきそうやなぁ、と最近感じています。

周囲の起業家と話をしていても、資金調達を考えているところは当たり前のように複数の VC とディスカッションを行っていて、ほとんどのケースで以下3つの選択基準に集約されている印象です。

1、事業提携による実質的なメリットを受けるため、もしくは売却先候補としての CVC。
2、お金以外のサポートが厚いことで有名な VC。
3、投資実行までの決断が圧倒的に速い独立系 VC。

1つめの例としては、最近 Google に32億ドルで買収されたハードウェア系スタートアップの Nest。Nest は元々は Google Ventures のポートフォリオで、CVC から Google 本体への売却という分かりやすいパターン。今後も Google Ventures 経由でのこういった買収事例は増えそうです。

Y Combinator や 500 Startups は厳密には VC ではないですが、世界中の起業家が YC や 500 の門を叩く理由は彼らが抱えるメンター陣の層が厚いためであることは言うまでもなく、USV の Fred Wilson も “What Is A Venture Partner And Why Does It Matter To You?” というタイトルで、投資先であるスタートアップに送り込まれるベンチャーパートナーの役割と重要性について語っています。これは2つめの例ですね。

3つめの例は、とにかくスピード重視で、上記2つのメリットよりも自社の成長速度を落としたくないスタートアップとそれに応える VC が当てはまります。

つまるところ、こういった差別化要因を VC 側もしっかり提示していかないと、今後はスタートアップに選んでもらえない状況になりつつある、という話。

あくまで1つの方向性ですが、これからは財務諸表と基本的な KPI が理解できてアドバイスができる VC だけでなく、MixpanelKISSmetrics などのツールを使いこなし、起業家が見ている KPI セットをリアルタイムに共有しながら、LTV / CAC の視点で迅速にかつ的確に支援ができる新しい世代の VC が求められてくるような気がしています。要するに起業家と同じ言語で会話ができる VC、ということです。

具体的な例で言えば、あるプロダクトでの幾つかの KPI に減速・低下が見られた場合、それぞれの KPI が変化した原因を素早く突き止め、翌日には起業家に対して「昨日の KPI 変化の件ですが、これに対する施策をA〜Cプランで3つほど持ってきました。」と提案できるくらいのスピード感が求められてくるのはないかと思っています。

通常であれば、週次や月次といったタイミングで起業家が KPI をレポートにまとめて VC に開示し、それを受けて VC がアドバイスや施策を講じるわけですが、環境変化の速い IT 業界では、そのような形ではスタートアップ側が求める経営スピードについて行けないリスクが生じてきます。

VC 側が Mixpanel や KISSmetrics のアカウントをスタートアップと共有して、リアルタイムに KPI をモニタリングしながらサポートすることができれば、起業家の貴重な時間をレポートの作成という非生産的な作業に割く必要がなくなり、コミュニケーションの密度とスピードが劇的に向上するのではないでしょうか。

エンジニア出身の VC であれば、さらにもう1歩踏み込んで、自身が考えた施策をコードの形でプロダクトに実装し、A/B テストの結果を持ってグロースハッカーの立場で起業家に提案するくらいでも良いかもしれません。500 が自社の人員として Distribution Team を抱えているのも、おそらく同じ理由で、投資先のスタートアップに対してすぐに実践可能な顧客獲得施策を提案するためでしょう。

「そういう仕事はアクセラレーターがやるものであって、VC の仕事ではない」というご指摘もあるかもしれませんが、VC の数が爆発的に増えてきている近年においては、やはり差別化要因のない VC は、それのないスタートアップと同じく市場のなかで淘汰されてくのではないでしょうか。ポイントは、やはりスタートアップが必要とする経験やスキルを持ち合わせた人物になること。言い換えれば、スタートアップが通るべき道を先に自身で通って経験した人物になること、だと考えています。

英語では “Been there, done that.” (それはもう経験済だ) というフレーズがありますが、まさにそういった人材が日本の VC 業界でもいよいよ顕著に求められてきそうな気がしています。