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ベン・ホロウィッツHARD THINGSはVCにぜひ読んでもらいたい

letter-spacing完全に周回遅れやけど、ようやくベン・ホロウィッツの著書「HARD THINGS」を読了。

イントロ部分でも書かれている通り、本書はスタートアップCEOの心境をまさに「吐き気がする」リアリティで描写してます。

特にCEOのキャリアが3年以上ある人は自分の過去の経験と照らし合わせて読むと、さらに吐き気が増してダイエット効果が期待できるので、オススメです。

冗談はさておき。ぶっちゃけ、起業したばかりのCEO、もしくは会社経営の本当の辛さが分かり始める3年が経過する前のCEOには、本書の真意というか、言わんとしているところが残念ながら伝わらんと思います。

自分はホロウィッツほどのキャリアはないけれど、20代で起業してから現在も40代にして現役のスタートアップCEOなので、そりゃあもう、三途の川に片足を突っ込んだことは1回や2回じゃ済まん年齢です。

そういう人間が本書を読むと、軽いPTSDとも感じられる、脳ミソのニューロン内に今までずっと隠れていたダークサイドな記憶がふつふつと蘇ってくる、一種のハイな気分を味わえます。

それくらい、このHARD THINGSは他のビジネス書とは圧倒的に異なるテイストで書かれている点が良かったです。とにかくヒヤヒヤ感が生々しいです。

本書を読み終えて、この本を誰に一番読んで欲しいと思ったか。それは自社の共同創業者でもなければ、自分の妻でもなければ、スバリ、VCで働くキャピタリストです。

これはもう現実なので仕方ないんやけど、日本でもシリコンバレーでも、キャピタリストの大半は会社経営の経験ゼロ、CEOとしてのキャリアもゼロ、という人材が占めてます。

日本だと、特に老舗VCから独立して自分のVCを立ち上げた人、もしくは金融業界出身の人が圧倒的に多いです。いずれも、やはりCEO経験はゼロです。

独立系VCの経営者やGPも確かにCEOなんやけど、VCにはProduct-Matket Fitもなければ、エグジットから逆算した経営戦略もなければ、(よほどのことがない限り)個人保証の付いた借入金もないので、スタートアップCEOが直面する苦悩の乗り越え方については、正直ほとんど参考にはならんです。

もちろん、Andreessen HorowitzやKhosla VenturesのようにCEO/Co-founderとして非の打ち所がないキャリアを積んでからキャピタリストになる人物もいれば、SequoiaやKPCBのように純然たるキャピタリスト集団として、これまた非の打ち所がないトラックレコードを出しているVCもあります。

ただし、自分もいよいよスタートアップ界隈で「やや年齢高め」の世代に入ってきたこともあってか、最近はVCとのミーティングで失礼ながらも「このキャピタリスト、さては会社経営のこと何も知らへんな?」と感じてしまうことが、結構な頻度で起きるようになってきました。

先にお断りしておくと、事業を常に第三者的な立場から見て、金融面、時には精神面で起業家を支え続けてきたキャピタリストに対しては、自分は心の底から尊敬してます。

そして、今この瞬間も自分はそういうキャピタリストに支えられて生きてます。本書に出てくるビル・キャンベルなんかは、まさにそういう尊敬に値する人物なんやったと思います。

一方で、経験の浅いスタートアップCEOがVCからの投資を得るために、会社経営の経験がないキャピタリストに一生懸命ピッチしている姿を見ると、「いやー、そのキャピタリストから投資してもらっても、たぶんお金以外の付加価値はないと思うで。」とアドバイスしたくなることがあったりします。

いや、嘘つきました。実際にそういうアドバイス、してます。

それが、いわゆるハンズオフ型投資を標榜しているVCならともかく、ハンズオンとかバリューアップをウリにしているVCだったりするので、困りもんだったりするわけです。

ちなみに、投資の話が流れるリスクを覚悟のうえで、自分は過去にこういう質問をキャピタリストにぶつけたことがあります。

・過去に担当したスタートアップの一覧をリストで送ってもらえませんか?
・各スタートアップに提供した実質的な支援内容を教えてもらえませんか?
・実際に支援したスタートアップの経営者1~2名にヒアリングさせてもらえませんか?

これ、ピンと来た人はなかなか鋭いです。上記の質問は、通常キャピタリストがスタートアップCEOに対して行うものです。自分は相手を見て必要であれば、このような質問を失礼のない範囲でキャピタリストに送ることがあります。

本書でもたびたび「スタートアップ成功の秘訣は優秀な人材による世界最高峰のチームである」という表現が出てきます。キャピタリストも、広義の意味ではスタートアップのチームの一員です。

資金調達のタイミングを見図らないながら、半年〜1年間ほど口説いてきたエース級の人材をようやく自分のスタートアップに引き入れることに成功した。

これ、3年間くらいスタートアップのCEOをやったことがある人間なら、必ず1度は経験しているはずです。なのに、同じチームメンバーであるキャピタリスト選びで妥協してどないするねん、というのが自分の主張です。

自分は40歳を過ぎる頃から、投資を受ける側であってもキャピタリストには1)自分よりもCEOとしての経験が豊富である。2)苦境に直面した時には精神面でも支えになってくれる。3)自分にはない圧倒的な人脈を持っている。という3点のうち最低2点を満たすことを常に求めるようにしています。

ほとんどの場合、キャピタリストは自身の履歴書を見せてくれないので、これら3点の要素を確認するには、やはり上記の質問をすることが大事になります。特に自分の場合は、日本のキャピタリストでは稀有な存在であると認めつつも1)の要素を相当に重視してます。

そう考えると、ホロウィッツ自身が、これら要素を満たすVC・キャピタリストがいないことに不満・疑問を感じて、本物のCEO経験者だけでAndreessen Horowitzを立ち上げたのも、2009年の設立から3年しか経っていない2012年のAndreessen Horowitzがたった3週間で1500億円のファンドレイズをやってのけたのも、彼らが今日シリコンバレーで最も尊敬を集めるVCになったのも全て納得です。

最後に、若いスタートアップCEOにアドバイス。キャピタリストに対する上記の質問は、誰でも言って良いわけではないことだけ留意を。

何の経験もない起業家が、いきなり経験豊富なキャピタリストに対して「あなたのトラックレコードみせてください。」と質問したら、投資の話が流れるだけならまだマシで、日本の狭いスタートアップ界隈ではすぐにbad reputationが広まります。経験がない時はキャピタリストに最大の敬意を払って、彼ら・彼女らの話に真摯に耳を傾けましょう。

それはそうと、キャピタリストのみなさん。この機会に「吐き気がする」スタートアップCEOの世界を本書でちょいと覗いてみてはいかがでしょう。

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