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起業家がアドバイスを求める際の3つのルール

Image by mars_discovery_district on Flickr

自分のライフスタイルや家族構成の変化に伴って、まとまった時間をとって本を読んだり、誰かの考えを深く考察する機会が減ってくるのは仕方ないことですが、そんな中でもここ数年ほど毎週欠かさずに聴いている podcast が2つほどあります。

Startups For the Rest Of Us と Mixergy は、前者が bootstrap (自己資金だけで起業するスタートアップ)に、後者が VC funding (外部からの資金調達とスケールを前提にしたスタートアップ)に特化しているので、両方の価値観のバランスをとるという意味でどちらも欠かさずに毎回聴くようにしています。

今回は Startups For the Rest Of Us の最新エピソード “How to Deal With Haters” に関連して、起業家が外部の人間からアドバイスを求める際のルールについて書きたいと思います。

創業初期の起業家、特に first time founders と呼ばれる起業初心者は、あらゆることについてアドバイスを外部から求めます。ファイナンス、プロダクト開発、採用(解雇)から個人的なことまで、時にはメンターと呼ばれる人が、時にはアドバイザーと呼ばれる人が起業家の前に現れて、あれこれとアドバイスをします。

往往にして、これらの外部の人間は互いに矛盾するアドバイスを言ったりします。どのアドバイスに耳を傾けて、どのアドバイスを受け流すか、最終的な判断は起業家自身に委ねられるわけですが、それでも一般的なルールを知っておくと、個々のアドバイスにまどわされる時間的ロスが少なくなります。

以下の3つのルールは、あくまで自分個人の考えなので、他の人はまた異なるルールを挙げると思いますが、この3つルールは自分の起業家としてのキャリアを振り返った時に、どのアドバイスが本当に有効だったかを検証した結果のまとめでもあるので、それなりの実効性があると考えています。

ルール1:「スティーブ・ジョブスは」という人物からはアドバイスを受けない

起業経験が全くないメンターやアドバイザーがよく口にするセリフがこれです。いわゆるアカデミアタイプと呼ばれる人で、他人の経験や実績でしかものを語れない人です。よくあるパターンはアップルやスティーブ・ジョブズのやり方を例に挙げて、それをアドバイスとするやり方です。

テック系ではシリコンバレーのスタートアップ事例やトレンドを例に挙げる人もいますが、こういう事例を挙げる人ほど、Bay Area・西海岸はおろか海外にすら住んだことがない人だったりします。海外に住んだことがある人は、同じ条件を日本で再現できないことなど十分に分かっているので、あえてシリコンバレーの事例など持ち出したりしません。

英語では、この手の人のことを “book smart” と呼びますが、要するにウェブ・本から得た知識や他人から聞いた情報だけでものを語る人です。これに対して、実体験で学んだことでものを語る人のことを “street smart” と呼びますが、起業家が耳を傾けむけるべき相手は後者の street smart のみです。

Street smart な人を別の呼び方で “been there, done that” と英語で言うこともありますが、要するに起業家がこれから体験するであろう出来事を一通り体験している人のことを指します。稀に相手が投資家というだけで無条件にアドバイスを聞き入れる人がいますが、起業経験のない人のアドバイスを聞き入れるのは、バットすら握ったことがない人からホームランの打ち方を学ぶようなもので、その人から具体的に得るものは基本何もありません。

アドバイスを受ける際は、自分がこれから経験するであろう出来事を経験している人に限定して、話を聞くようにしましょう。ちなみに、過去の事例だけをひたすら学び続ける MBA のケーススタディやアナリストという職業がありますがそれらは全く別の話です。それはそれなりに意味や意義があることなので。

ルール2:スケールの小さい人からはアドバイスを受けない

これは1番目の “been there, done that” に繋がる話でもありますが、たとえ一通りの起業経験を持っている人物であってもエグジット(IPO / M&A)の経験がない人からのアドバイスは、かなり目線が低いことが多いです。

資金調達の額にしても、日本から攻めるか世界から攻めるかというアングルにしても、会社の成長スピードにしても、エグジット経験のある起業家とそうでない起業家の間には、経験値という意味でも精神力という意味でもかなり大きな隔たりがあります。

さらに、自己資本だけで会社を運営しているいわゆる bootstrap 型スタートアップは、あえてスケールの大きなことは考える必要はありませんが、自分自身が外部から資金調達を考えている VC funding 型スタートアップであるにもかかわらず、bootstrap 型の起業家にアドバイスを求めても、これもまた得るものはほとんどありません。同じ起業家ではありますが、向かっている方向が全く異なります。

スケールの違いという観点から、業種の異なる起業家にアドバイスを求めるのも正しくないことがあります。例えば、自分がバイオ・ライフサイエンス・ハードウェア系スタートアップをやっているにも関わらず、IT・ソフトウェア系スタートアップの起業家や投資家にアドバイスを求める場合です。資金調達の額1つをとっても、前者の業種は1回のラウンドで数億円が最低ライン、一方で後者の方は数百万円から数千万円です。この2つの業種では、求められる戦略の立て方や自分の周りを固める人材の種類などが大きく変わってくるので、これもやはりミスマッチです。

以前のブログ記事でも書いた通り、Nest 創業者 Tony Fadell が「(ハードウェアスタートアップでは)実際に利益が出始めるまでには7億円から10億円もの資金が必要になる」と言っているのは、彼がこの業種の人間でエグジット経験があるから聞くに値するわけです。ハードウェアスタートアップであるにも関わらず数千万円規模の話をしている人には耳を傾ける必要はありません。

ちなみに、エグジット経験者であれば全てのアドバイスを聞くべきかと言えば、そうでもありません。これはアドバイスをする側のスキルの問題でもありますが、エグジット経験者は今自分が置かれているポジションのさらに上をポジションを見ている状態、例えばマザーズ上場済みであれば東証1部を狙っている状態なので、その立場からいきなりアドバイスをされても、その内容を立ち上げ直後のスタートアップでは何も実践できないことがあります。

メンタリングをする側も、自分の過去のキャリアをさかのぼって今目の前にいるスタートアップが次に直面しそうな課題や問題についてアドバイスをするということを心がけないと、アドバイスを受ける側の人間にとっては雲の上の話にしか聞こえないという事態になります。

あちこちで上場企業の経営者を招いたセミナーなどがありますが、このような「雲の上の話」ばかりしているセミナーは実はかなり多いです。つまり持ち帰って実践できるものが何もない類の集まりです。これはこれで意味や意義があるのかもしれませんが。

ルール3:利害関係のある人物からのアドバイスは百歩引いて受け止める

投資家から出資を受けると、当然その人物は利害関係のある人物になるわけですが、彼らのアドバイスを100%受け入れるべきかと言えば、そうでもありません。

特に注意しなければいけないのは、出資者になってくれそうな投資家からのアドバイスです。こういった人物からのアドバイスは、結局のところ自分の都合の良いようにするための話であることが往々にしてあるので、そこは百歩身を引いてその内容を吟味すべきです。このような立ち位置の人物からのアドバイスは最初から「交渉カードの1つ」と割り切って接した方が良いかと思います。

First time founders は、その経験不足から目の前のディールに飛びつきがちですが、契約を結ぶ前に「なぜこのような条件やアドバイスを我々に言うのか」ということを冷静になって考える必要があります。そういう意味でも1番目のルールにあたる “been there, done that” な起業家からのアドバイスには十分すぎるくらい耳を傾けるべきです。

さらに、複数の VC から資金調達した経験のある起業家なら分かると思いますが、既存投資家であってもそれぞれの思惑など違って当たりまえです。既存投資家からのアドバイスであってもひとまず「フィードバックありがとうございます。これを参考に決断は自分で行いたいと思います。」とサラリと返したほうが良いかと思います。

以上です。つまるところ、どれだけブレない強靭な精神力と信じる力を身につけるかという話にもなりますが、こういった簡単なルールを常に念頭に置いておくだけでも、少なからず他人に惑わされる時間は削減できるかと思います。

注釈:上記の見解は自分個人のものであって所属するVCの見解ではありません。

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