起業しないという選択肢

シンガポールの VC である Golden Gate Ventures の創業者 Jeffrey Paine 氏のブログ記事からの抜粋。

I will also give my input from the start and actively kick people out no matter what the mentor rating is. The criteria is simple: focus on the mission and ideology of your company and clearly articulate the problem statement against your own personal founding story. If the general direction is game changing, and may move me to think of quitting my job (hypothetically) to join you. You will be safe and will remain in the program.

要約すると、こんな感じ。

「(ファウンダー・インスティテュートでの)メンターの評価に関わらず、これからは自分の判断で受講生をプログラムから積極的に退学させることにした。君がやろうとしていることが世の中を一変させるような素晴らしいアイデアで、かつ自分を君のスタートアップに参加したいと思わせることが出来たならば、君はプログラムに残り続けることができるだろう。」

自身の VC 経営以外に、シンガポールでのファウンダー・インスティテュート立ち上げメンバーとして過去4年間プログラムを運営してきた彼のアドバイスは本当に参考になることが多い。関西でのファウンダー・インスティテュートの立ち上げが決まった時も、彼は真っ先にメンター就任を OK してくれました。

そんな彼が「積極的に受講生を退学させる」と言っているわけなんですが、それには当然理由があったりします。自分も現在ファウンダー・インスティテュート関西に応募頂いている様々な人の選考に携わっていますが、その選考に当たって1つだけ特に注意していることがあります。

それは応募者に起業しないという選択肢を与えることです。

Y Combinator や 500 Startups、TechStars などのアクセラレーターは、参加企業に対して一律に小額の出資を行っています。その代わりに参加企業は自社の 5〜7.5% の equity (株式) をアクセラレーターに預けます。これはどういう事はというと、これらのアクセラレーターに参加する企業は応募の時点で既に会社組織が出来上がっていることが前提で、逆に言えばすでに起業した人が応募するプログラムになっているわけです。

一方でファウンダー・インスティテュートは、スタートアップの成長を支援する組織として同じアクセラレーターに属するものの、自身を Idea-Stage Incubator と呼んでいるように、ビジネスアイデアを昇華させて実際のビジネス(会社組織)に変える部分について特にフォーカスしています。つまり、ほとんどの参加者が起業していない状態で応募するわけです。

そのため、ファウンダー・インスティテュートでは、参加者に対してある特別な人生のイベントが発生することになります。それは、安定した収入があるサラリーマンという立場を捨てて、全く収入が無い起業家という人間になる、というイベントです。

この人生の重要な局面に、ファウンダー・インスティテュートの運営メンバーは、ほぼ毎回立ち会うことになります。病院で言えば、産婦人科の助産師みたいなもんです。

ファウンダー・インスティテュートは基本的に夜間のプログラムであるため、起業を決意した後でも、卒業後にまたサラリーマンの仕事を続けるという選択肢もとれるようになってはいますが、それでも毎年数百人の起業家を産み出している事実には変わりないため、ここは慎重に考える必要があると思っています。

残念ながら、世の中には起業家という職種に向いている人と、そうでない人がいます。この間、テレビドラマでも似たようなシーンがありましたが、起業家になると「明日までに1,000万円準備して持って来い。」というような状況に遭遇することが何度かあります。もちろん、スバリそのままの状況に遭遇する人は少ないかもしれませんが、それでも倒産の2文字が寝ている間も頭から離れない状況になることが必ず数回は訪れます。

何を食べても砂の味しかしないという心境は、その状態に追い込まれた人間にしか分かりません。自分も何度もそういう経験をしているので、起業家になるという人が持つべき最低限のメンタリティーとストレス耐性については十分すぎるほどによく分かります。

プログラムに応募する時点で、そういった起業家の素質を持ち合わせていない人は、やはり一定数存在します。そういった人をやみくもにトレーニングして、起業させて、2〜3年後にド派手に失敗させるというのは、自分は絶対にやるべきではないと思っています。

特に日本ではまだまだ失敗者に対する社会的な扱いが厳しい部分も根強く残っているため、1度の失敗がその人の人生を本当にメチャメチャにしてしまう可能性もあります。そういった人生の大きな局面に、自分たちは関わっているのだという意識は、ファウンダー・インスティテュートのような組織の運営に携わる人間は常に持っている必要があるわけです。

本来、ファウンダー・インスティテュートのような学びの場を提供する組織は、生徒集めが最大のプライオリティで、とにかく人を集めるために各社飛び回っているわけですが、それは我々も一部当てはまる部分はあるものの、決してそれだけに注力してはいけないということです。

前回のブログ でも少し触れた通り、物事を立ち上げられない人のなかには、物事を立ち上げること自体が目的になってしまい、適切な仲間や人材がいないのに無理矢理それを押し進めようとする人がいます。これも、うまくいきません。やはり全ては人です。数や期限は関係ないです。

アメリカに留学していた頃、メジャーリーグに入ることを夢見て同じく日本から留学してきた友人がいましたが、彼は当時から日本でも傑出した野球人材で、学生ながら地元のマイナーリーグのプロ選手と一緒に練習するくらいの能力とスキルを持っていました。

そんな彼ですら、メジャーリーグという世界最高峰の市場でプレーする人間の凄さを間近で見たことによって、絶対に自分では超えられない身体的な壁があることに気づくことが出来たと言っていました。それは、それこそ人間の骨格や細胞といった、日本人である以上なかなか超えられない壁だったそうです。

彼はメジャーリーグでプレーするという夢は残念ながら諦めることになりましたが、その後日本に帰国して自分のビジネスを立ち上げ、いまでは社長としてかなり上手くやっています。

何が言いたいかというと、メジャーリーグにいるプロ中のプロ達が、彼に対して「ノー、君には無理だ。」とハッキリ言ったことで、今の彼があるわけです。これはこれで良いと思っています。日本での起業家を増やす努力をする一方で、こうやってハッキリと「ノー」という先人がいなければ、やはり日本からは優れた起業家は産まれないのではないでしょうか。

これからファウンダー・インスティテュートに応募頂く方、もしくは学期が始まったあとの受講生の方に、「ノー」と言わなければいけない機会は今後もあるかと思います。しかし、それは経験や客観に基づいて、その分野のプロが考えに考え抜いた結果そう言っているわけですので、それなりの理由があることを理解頂ければ幸いです。

逆に、そういったしっかりとした人たちに囲まれて卒業された起業家は、どこに行っても活躍できると信じています。がんばりましょう!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加