ハードウェアスタートアップを立ち上げる際の注意点

先日審査員を務めさせて頂いた TechCrunch Hackathon Osaka の記事が公開されました。

記事1:Android直挿しボードでIoTの可能性も見えた!? TechCrunch Hackathonの優秀作品を紹介
記事2:TechCrunch Hackathon Osakaでニッポンのレゴマインドストーム「Studino」を見た!

パナソニック、シャープ、京セラ、OMRON、村田製作所などモノ作り企業が集積する関西で、IoT (Internet of Things) をテーマにしたハッカソンやスタートアップ関連イベントが最近だいぶ増えてきたように思います。それに比例するかのように、自分の周りでもハードウェアを扱ったスタートアップの起業相談をよく受けるようになりました。

自分自身、20代で仲間と一緒に起業した最初のスタートアップがいわゆるデジタルサイネージ関連で、海外でハードウェアを OEM 生産して自社のブランドでそのハードウェアを販売するビジネスであったこともあり、ハードウェアを扱ったビジネスを一通り経験することができました。

そこで、今回は特に IT 業界からハードウェア業界に転身してビジネスを立ち上げようとする起業家の方に向けて、幾つかの注意点をアドバイスしたいと思います。

1、保守費用は5割増で

自分が共同創業した最初のスタートアップのビジネスモデルは、客先(店舗)にハードウェアを設置してワンタイムの売上を出しつつ、設置後に映像コンテンツを月額課金で供給するというものでした。

ハードウェアの売上はその種類や規模にもよりますが、一般的にソフトウェアだけの売上よりも大きくなる傾向があり、販売台数に伴って売上も指数的に伸びて行きます。販売開始後の半年〜1年はあまり大きな問題も起こらず順調に進みますが、それ以降、ハードウェアビジネス特有の問題が顕著化します。それが保守問題です。

客先に設置するタイプのハードウェアでは、ひとたび問題が起きると当日中に現場に人を送り込んで、その場で修理対応を行うのが基本です。

当時の自分を振り返っても、問題が発生した際は日中の業務を終えた後に、クルマに乗り込んで東京から東北まで深夜の高速道路を6時間かけて移動し、お店の閉店後の夜11時あたりから修理作業を開始し、修理したハードウェアが正常に動作することを確認するために一晩中エージングテスト(長時間ハードウェアを稼働させて問題がないことを確認する作業)を行い、その間は自分のクルマの中で寝泊まりして、朝方になってお客さんに修理完了の報告をして、再び高速道路で東京に戻り、そのまま通常の日中業務に戻る、という日々を送っていました。

まぁ、若さにカマかけて無茶苦茶にハードワークしていた時代でした。一応、肩書きは CTO でしたが、スタートアップでは保守専用の人員など抱えられないので、最初のうちは全部自分でやります。営業マンもエンジニアも全員保守作業を兼任します。

もちろん保守作業をアウトソースすることも出来ますが、その場合は外部の人材を常にキープすることになるため、ほぼ確実に固定費が上がります。スタートアップは固定費を抑えざるを得ない状況にあることがほとんどですので、やはり最初は自分たちでという話になります。

B2C で一般消費者にハードウェアを販売するビジネスモデルでも同じです。客先まで行って修理を行うことは稀ですが、それでも商品の返品にかかる送料、修理用の部品の確保、交換用商品の在庫などなど、B2C であっても保守にかかるコストは相当なものです。

自分のアドバイスは、保守にかかる費用を一旦見積った後に、その費用を5割増することです。それでいて、現実にはその費用を超えることになると思います。とにかく保守にかかる費用は多めに見積ることです。

2、簡単にやめることができない

ソフトウェアだけで完結するビジネスとは異なり、ハードウェアを扱うビジネスでは、自分がビジネスをやめても製品は顧客の手元に残り続けます。一昔前のパッケージ型ソフトウェアのビジネスも同じ状況でしたが、今はほとんどがクラウド経由で提供されるためか、SaaS ビジネスから転身しようとされる起業家の方は意外とこれを認識されていないことがあります。

さらに、B2B で保守期間が契約書に明記されていたりすると、基本的にはその期間が終わるまではビジネスをやめることができません。もし途中でやめる場合は、その事業を継続してくれるパートナー企業を見つけて事業譲渡という形をとって、顧客のビジネスに影響が出ないようにする必要があります。

一部の IT 系スタートアップのように、一方的に通知をメールで送ってサービスを自社都合でいきなりやめてしまうと、ハードウェアビジネスではそれこそ訴訟問題に発展するケースもあります。撤退する際は、十分な計画の元それを実行に移さなければなりません。

3、キャッシュフローは前払金を前提に

通常、スタートアップが自社で工場を構えてハードウェアの生産を行うケースはほとんど無いため、何かしらの形で外部の業者に製造を委託することになります。その際、IT 系スタートアップではおそらく経験しないであろうユニークな商習慣に出くわすことになります。

それは、全ての支払いが「前払い」で行われる、ということです。モノを作る製造業者は、何かしらの材料を仕入れて製品を作るため、製造の前にキャッシュアウトが発生します。そのため、立ち上がったばかりで信用力に乏しいスタートアップは、これらの製造業者に仕事を依頼する際に前金制で支払いを行うことが求められます。逆の立場になって考えれば当たり前の話ですね。

なので AWS のように使った分だけ後で課金される IT 系スタートアップとは常識が異なるワケです。では、仮に製品がものすごくヒットして大量の注文が入ってしまったらどうなるか。極端な話、1個1万円の製造原価の製品を1万個作るために1億円を「前払金で」製造業者に支払う状況が発生することになります。

これが、大きな売上が出ているにも関わらず会社が立ち行かなくなる瞬間です。IT 系スタートアップでも、TechCrunch などで掲載されてトラフィックが急増した結果、サーバーのキャパシティが足りなくなり採算度外視でインスタンスを追加するなどのケースが稀にありますが、ハードウェアビジネスの場合はキャッシュウアウトの金額が IT の比ではありません。

しかも、製造した製品が全て売れるわけではなく、在庫・返品製品として売れ残るリスクも発生してきます。ハードウェアビジネスでは、受注・発注・資金回収にまつわるキャッシュフローマネージメントがかなり重要で、将来のキャッシュニーズに基づいた綿密な資金調達の計画と実行が求められます。

4、様々な規制にあわせる必要がある

自分が過去にデジタルサイネージのビジネスをやっていた時も、ハードウェアを設置する都道府県ごとに屋外広告物に関する規制が異なり、それら全ての規制に準拠しつつ製品の営業・製造・設置・保守を行う必要がありました。

IT のビジネスでも規制が全く関係しないわけではないですが、ハードウェアの場合、関わる規制の数が多岐に渡る場合が多いです。特に WiFi など電波を飛ばす製品は各国で認証を取る必要があります。稀に Arduino や Raspberry Pi などに中国製の無認可の WiFi モジュールを載せて全世界での販売をうたっているスタートアップや個人の方がいらっしゃいますが、これはかなりグレーです。

対象とする分野やユーザー層によってもクリアしなければいけない規制が変わってきますので、医療用や子供向けなどターゲットが決まった時点で、規制のチェックを行う必要があります。これらはもちろん製品設計・開発の前にやります。

5、バージョン3まで持ちこたえる体力を身につける

以前このブログで書いた「ハードウェアスタートアップやるなら京都と関西」でも少し触れましたが、Google に買収された Nest の創業者 Tony Fadell もインタビューで答えている通り、どんなハードウェアもおそらくバージョン3になるまで、まともな利益が出ない状況が普通です。

逆に言えば、バージョン1&2の製品は赤字覚悟、運がよくて利益トントン。これがハードウェアスタートアップでの常識とも言えます。なので、VC からの資金調達も含めての事前の資金確保とバージョン3に達するまでのキャッシュアウト計画が非常に重要になります。

他にも細かいところでは色々と注意しなければいけない点はあるのですが、ブログなのでこの辺にしておきたいと思います。ここまで読むと「ハードウェアスタートアップなんてやるもんじゃない」と思われるかもしれませんが、実は自分はそうは思っていません。

今では 京都試作ネット のようなプロトタイプ製作に特化したプラットフォーム、Kickstarter のような顧客開発ツール、TechShop のようなコミュニティレベルの支援組織があるので、これらをうまく活用すれば数年前では考えられないようなスピードと低リスクでハードウェアスタートアップが立ち上げられる時代になりつつあると思っています。

ちなみに Kickstarter を「資金調達ツール」ではなく「顧客開発ツール」と呼んでいるのは理由がありますが、これはまた別のブログ投稿で触れたいと思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加