ベンチャーキャピタルはスタートアップに価値を提供できなければ死ぬしかない

nikkei_bizえらいたいそうなタイトルですが、これは日経ビジネス 2014年1月20日号の特集「シリコンバレー 4.0」で、ある中堅 VC の幹部が言ったセリフだそうです。

「お金」という切り札を持つ投資家ですら、「育てる」能力がなければたちまち淘汰される時代になったからというのが理由とのこと。

ここ1〜2年のコーポレートベンチャーキャピタル (CVC) やベンチャーファンドの組成ラッシュを見ていると、いよいよ日本でも VC に対する競争原理が本格的に働いてきそうやなぁ、と最近感じています。

周囲の起業家と話をしていても、資金調達を考えているところは当たり前のように複数の VC とディスカッションを行っていて、ほとんどのケースで以下3つの選択基準に集約されている印象です。

1、事業提携による実質的なメリットを受けるため、もしくは売却先候補としての CVC。
2、お金以外のサポートが厚いことで有名な VC。
3、投資実行までの決断が圧倒的に速い独立系 VC。

1つめの例としては、最近 Google に32億ドルで買収されたハードウェア系スタートアップの Nest。Nest は元々は Google Ventures のポートフォリオで、CVC から Google 本体への売却という分かりやすいパターン。今後も Google Ventures 経由でのこういった買収事例は増えそうです。

Y Combinator や 500 Startups は厳密には VC ではないですが、世界中の起業家が YC や 500 の門を叩く理由は彼らが抱えるメンター陣の層が厚いためであることは言うまでもなく、USV の Fred Wilson も “What Is A Venture Partner And Why Does It Matter To You?” というタイトルで、投資先であるスタートアップに送り込まれるベンチャーパートナーの役割と重要性について語っています。これは2つめの例ですね。

3つめの例は、とにかくスピード重視で、上記2つのメリットよりも自社の成長速度を落としたくないスタートアップとそれに応える VC が当てはまります。

つまるところ、こういった差別化要因を VC 側もしっかり提示していかないと、今後はスタートアップに選んでもらえない状況になりつつある、という話。

あくまで1つの方向性ですが、これからは財務諸表と基本的な KPI が理解できてアドバイスができる VC だけでなく、MixpanelKISSmetrics などのツールを使いこなし、起業家が見ている KPI セットをリアルタイムに共有しながら、LTV / CAC の視点で迅速にかつ的確に支援ができる新しい世代の VC が求められてくるような気がしています。要するに起業家と同じ言語で会話ができる VC、ということです。

具体的な例で言えば、あるプロダクトでの幾つかの KPI に減速・低下が見られた場合、それぞれの KPI が変化した原因を素早く突き止め、翌日には起業家に対して「昨日の KPI 変化の件ですが、これに対する施策をA〜Cプランで3つほど持ってきました。」と提案できるくらいのスピード感が求められてくるのはないかと思っています。

通常であれば、週次や月次といったタイミングで起業家が KPI をレポートにまとめて VC に開示し、それを受けて VC がアドバイスや施策を講じるわけですが、環境変化の速い IT 業界では、そのような形ではスタートアップ側が求める経営スピードについて行けないリスクが生じてきます。

VC 側が Mixpanel や KISSmetrics のアカウントをスタートアップと共有して、リアルタイムに KPI をモニタリングしながらサポートすることができれば、起業家の貴重な時間をレポートの作成という非生産的な作業に割く必要がなくなり、コミュニケーションの密度とスピードが劇的に向上するのではないでしょうか。

エンジニア出身の VC であれば、さらにもう1歩踏み込んで、自身が考えた施策をコードの形でプロダクトに実装し、A/B テストの結果を持ってグロースハッカーの立場で起業家に提案するくらいでも良いかもしれません。500 が自社の人員として Distribution Team を抱えているのも、おそらく同じ理由で、投資先のスタートアップに対してすぐに実践可能な顧客獲得施策を提案するためでしょう。

「そういう仕事はアクセラレーターがやるものであって、VC の仕事ではない」というご指摘もあるかもしれませんが、VC の数が爆発的に増えてきている近年においては、やはり差別化要因のない VC は、それのないスタートアップと同じく市場のなかで淘汰されてくのではないでしょうか。ポイントは、やはりスタートアップが必要とする経験やスキルを持ち合わせた人物になること。言い換えれば、スタートアップが通るべき道を先に自身で通って経験した人物になること、だと考えています。

英語では “Been there, done that.” (それはもう経験済だ) というフレーズがありますが、まさにそういった人材が日本の VC 業界でもいよいよ顕著に求められてきそうな気がしています。

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